和歌山県立医科大学 内科学第4講座 循環器内科和歌山県立医科大学 内科学第4講座 循環器内科

ENTRY

大動脈弁狭窄症について

大動脈弁狭窄症

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)で用いる人工弁。事前の準備として、カテ-テルの先端に折りたたんだ状態で設置している
  • 経食道心エコー図検査:術前評価としてリアルタイムに3次元画像を用いながら逸脱した僧帽弁を立体的に評価することができます

 近年、日本では高齢化の進行とともに、心臓弁膜症が増加しており、75歳以上の13.2%が罹患していると考えられています。心臓にある4つの弁は、血液の流れを一方向に維持する役割を果たしています。心臓弁膜症とは、この心臓の弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態を指します。主に、弁の開きが悪くなる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために逆流する「閉鎖不全」に分類され、その中でも特に増加しているのが「大動脈弁狭窄症」です。
 大動脈弁狭窄症は、心臓の中でポンプの働きをしている左心室と大動脈の間にある「大動脈弁」が何らかの原因で硬くなることで、弁の開きが悪くなり、心臓から十分な血液を送り出せなくなり、心臓に負担がかかる病気です。典型的な症状としては、息切れ、胸の痛み、足のむくみ、動悸、疲れやすい、気を失うなどがあります。高齢者は、「症状はない」と思っていても、無意識に日常生活の行動量を減らしているために症状に気づいていない可能性があります。また加齢に伴う体の変化と似ていることから、「年のせいかな」と症状の進行を見落とす場合があります。
 大動脈弁狭窄症は、一旦症状が現れると予後が急速に悪化します。以前と比べて息切れや動悸、足のむくみ、疲れやすさを感じる場合、早めにかかりつけ医にご相談下さい。聴診で心雑音が指摘されたら、心エコー図検査を受けることで診断可能です。

  大動脈弁狭窄症は軽症、中等症、重症、超重症へと進行し、内服薬で症状を緩和することはできますが、自然に治ることはありません。重症以上まで進行した場合、手術治療が必要になります。主な手術治療として、開胸手術(外科的大動脈弁置換術)、カテーテル治療(経カテーテル大動脈弁留置術:TAVI)があります。手術治療の選択は、様々な要素(年齢、弁や血管の特徴、併存疾患、虚弱性など)を考慮し、両方の説明を行った上で、患者さんの希望も加味して、弁膜症チームで決定します。大まかな年齢の目安として、80歳以上はカテーテル治療、75歳未満は開胸手術を選択することが多いですが、患者さんの状態により治療法が変わることがあります。

和歌山県立医科大学 循環器内科
和田 輝明